
はじまり
古代ギリシア、イタケーの王子テレマコスは、トロイア戦争へ出征したまま帰らぬ父王オデュッセウスを探してその道程を追う。その旅は、生と死の境界線をさまよう困難に満ちたものだった……。
ミタメモ
原作は古代ギリシアの詩人ホメロスにより紀元前8世紀ごろにまとめられた叙事詩。
西洋文化圏の人々にとっては、学校で読まされたりと、教育の一部としてふれたことのある人が多い作品なようで、その壮大な映像化が7月の公開直後から全米大ヒット、今もロングラン中です。
どんだけ
2時間52分
どうみた
いつから
日本では9月11日公開予定
うんちく
公開直後、下のような批評記事が話題になりました。
London Review of Books — An Uncomplicated Man(英語)
批評を解説した記事(これも英語)
How Emily Wilson’s Takedown of “The Oddyssey” Ignited a Debate
女性として世界で初めてオデュッセイアを英語翻訳出版したという学者さんが書いたもので、著名な識者の立場から、映画をけちょんけちょんに批判しています。ノーラン監督本人もこの方の翻訳に影響を受けたと発言しているそうだし、その立場からのこの記事はキツい。
さっそくこの記事には、反論と擁護の嵐が巻き起こったらしいです。たしかに、ちょっと意地悪というか、必要以上に辛口な書きぶりではあるかもしれないので、擁護したくなる気持ちもわからないではない。
でも! 原作ファンを映像化作品で満足させるのは至難の業って、オタクの経験則として常識じゃないですか。
記事の中には、「あれもこれも、入れるべきシーンが入っていない」とか、原作ファンの言いがちなことがたくさん。また、俳優の演技がよろしくないとか、映画作品そのものについての不満もぶちまけられている。それもこれも、原作愛のなせるわざだと感じられます。
人生の数年間の職業生活をこの作品にささげちゃったくらいの思い入れと知識がある、通常のファン以上のファンなわけだから、映画の仕上がりに満足しないのは当然といえば当然だと思うのです。
そして一方、『オデュッセイア』を実は読んだことがない私の感想も、実はこの記事に近かったりします。
英雄の旅(まさに、脚本テキストでいうところのヒーローズジャーニー)が題材なわりに、そのようにスッキリ構成されていず(意図的に、なのかもしれないけれど)、単純にすらテーマ性が感じられなかった。
『オデュッセイア』をまとめて読んだことのない私にも、映画のそこかしこに「あ、このエピソードは聞いたことがある」「このモンスターはどこかで見た」という既視感のある箇所が多数あり、期待以上の迫力でそれらを映像化してくれて、それはおもしろかった。
だけど、あとに残る印象は各シーンについての散漫なもので、全体の物語から生じる大きな感動ではない。古典の映像化スゴイ、ということ以外には、やりたかったことはあったのかな、と思ってしまったのだった。
西洋文化圏の、上記の学者エミリーさんほどの強い思い入れはないライトユーザーなほうの観客にとっては、『オデュッセイア』には学校時代のノスタルジアと結びついた思い出があって、そのハイクオリティな映像化をみるだけで満足度が高くて、そこが高評価にむすびついているのかもしれないと思いました。
日本で公開されても、どうなのかな。みんなそんなに『オデュッセイア』に興味あるのかなー。一部に激しく興味がある人は、ぜったいいるだろうけど、大部分のひとにとっては、テストのために名前だけ覚えたくらいの作品にすぎなかったりしないだろうか。
ローカル日本人としての自分にとっては、たとえば『古事記』をこのスケールで映画化してくれたらものすごく感動するかも、と思った。まとめて読むまではいかなかったとしても、今まで部分的にでも、なにかにつけて耳にしたり、引用されているのを見たり、ゆかりの場所をたずねたりしたことがあった古事記の物語を、迫力の映像で一本の物語としてまとめてみせてくれて、どうもありがとう! って、思うかもしれない。
そんなかんじの大ヒットなんじゃないかなー、と思うので、日本ほかアジア圏でどう結果が出るかなと思ってます。
ぼんやり
ところで作品内で「この戦いで人類の文明が滅びてしまうかも」みたいな懸念がしばしば聞かれるのですが、おーい、そちらのお国が滅びたとしても、そのころ世界のほかの場所にも文明はあるから大丈夫よー、と言いたくなる。
日本ではそのころ縄文時代後期だそうで、そろそろ稲作も始めていたりして、中国には立派な都もあって、漫画キングダムよりちょっと前の時代。
そりゃ当時の人の感覚としては、自分の見えている世界がすべてなのは仕方がなく、西洋中心主義とか文句いうほどのことじゃないけれど―――しずかにぼんやり、もやってました。
そんなところもあって、やっぱり、おもに西洋文化圏のための映画かな、って気がしました。それはそれでいいのですが。
