
はじまり
地味でまじめな工場労働者の青年吉井は、その裏では情け容赦ない仕入れで転売屋として稼いでいる。工場をやめ田舎へ転居し専業転売ヤーとして邁進しようと決意した矢先、身辺で奇妙な事件が起こり始める。
ミタメモ
暴力の扱いの上手な映画監督は海外でウケる。黒沢清監督もそう。そしてその新作が、やっとのことで米国内で劇場公開されたということで、いいかんじに話題になっていたのでみにいった。
感想としては、おもしろ奇妙な映画であった。
最初から最後まで、退屈することなく、物語にひきこまれてみられる。キャスティングは素晴らしく、とくに脇をかためる魅力的かつ個性的なキャラクターたちが光る。
Cloudというタイトルが象徴するように、個人がインターネット上に別人格を持って活動していることが珍しくもなくなった世の中で起こりうる恐怖を取り上げている。ネット上の酷薄な人格に、現実のフィジカルな肉体の生活を持つ人格たちの燃えたぎる憎悪が忍び寄る……。そう、これも私の好きなホラー映画なのだと思う。だからこそ最後まで楽しくみていられた。
でも、ふつうのホラージャンルとはちょっとちがう。
あれ。作り手はどっちの味方なんだ?
主人公に生きててほしいのか、それとも死んでほしいのか、みる者の気持ちが揺れ動くのを、わかってて作ってるのだろうか。そうなんだろうな。そんななかでカタルシスはどうやって作るのだろう。奇妙だな、奇妙だな、と思っているうちに、なんかおもしろいことになって、終わった。
そんなかんじなので、みたあともポカンとしてから、いろいろと考えさせられるのだけれど、題材がなにしろネット上の転売ヤーのはなしなので、今現在と地続きすぎて、かえって非現実的な気がする。もうそういう人がいて、そういう憎悪が起きてるの、知ってる。でもここまではねぇだろ、みたいな。
ネット上で花咲く新しい職種の話のはずなのに、新しい恐怖、っていう新鮮さがないのだ。
もう、ちょっと古いかんじまでしてしまう。
日本の公開は昨年秋(いまは2025年夏)だけど、そのころでもその「もしかして古くない?」さは、あまり変わらない感覚な気はする。IT関連テクノロジーの変化は速くなりすぎていて、もう、フィルムというメディアで追うのには無理があるのかしらんとまで感じてしまう。むしろそれが、怖い!
菅田将暉、古川琴音、奥平大兼……というおいしいキャストで、テアトル新宿でプレミアイベントがあったにもかかわらず、うちの姉が知らなかったので、日本での公開はそんなに華々しくなかったのかもしれない(姉はいつも私の中の世間の指標)。
どんだけ
2時間4分