はじまり

身よりも学もないアラブ系青年のマリクは、民族どうしの対立が激しい刑務所に6年の刑期で放り込まれる。そこで最大勢力アルコルシカ系マフィアに初めての殺人を強要され、手下として囲われ絶望するマリクだが、そこから影の世界で生きる知恵を身につけていく。

ミタメモ

第62回カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞(最高賞のパルムドールではなく、そちらはミヒャエル・ハネケ監督が取った)。日本ではその翌年、『アンプロフェット』の名でフランス映画祭で公開されたあと、2年後に『予言者』として一般公開されたとか。

感想。しょっぱなから暗い……希望がない……でも、なぜか目が離せず、のめりこんでみてしまいました。刑務所内での勢力争いとか、日本のヤクザ映画にも近い題材が多々あるかもしれないけれど、そのめっちゃ詳細なリアルバージョンで、陰鬱。民族対立の要素はフランス国内の階級対立や人口分布も反映しているだろうと興味深くもあります。そこがまた、ゆううつ。

そんな民族対立の感覚は、興味深いのと同時に、私には正直つかみにくくもあり、速い英語字幕に食らいつきながらがんばってみていたけれど、具体的な事件面に理解が追いつかないところもありました。でも大丈夫! 「なんとなくだいたい」でも、最後までみられた! (正直にいうと、前後2回に分けてみた。そして、あとからちょっと調べ直した。)

無口な主人公マリクの、地味な説得力がすごい。物語の始まりには、なにを決断する能力も権力もなく、みているこちらをひたすらイラつかせる主人公になってもおかしくないのだけれど、それがなんともスムーズに好きになって感情移入。ボロボロの青年だけど「愛される主人公」の要素をしっかり持っているということなのでしょう。センチメンタルな演出はまったくないのに、ふつうにかわいそう……そして目が離せない。

最初の殺人からずーっとマリクにつきまとうその記憶についての表現は、陰鬱な作中でのユーモアを感じるような、ちょっと愛おしくさえある、この映画の微(ちょい)ファンタジー要素。予言者という映画のタイトルは、私にはなんとなく違和感があるのだけれど、この要素の重要性についての言及なのでしょう。

なぜみた

いま(2025年5月現在)新作SINNERSで話題のライアン・クーグラー監督(ブラックパンサー)が、大きく影響を受けた映画のひとつとして挙げたから。字幕のユニークな使い方、なんて表面的な部分もそうですが、人種にあらかじめ定義された人生についてどう考えるのか、なんてテーマ的な部分にも、たしかに影響が感じられます。

どうみた

Amazon Prime Video

リンク

作品WikiPedia日本語

ImDB

カンヌ国際映画祭公式(英語)